「人事に異動したのですが、まず何の勉強をしたらいいですか?」
というご相談を、たまにいただきます。
正直なところ、人事分野はとても広いです。
そして「人事をやっている人にとってはあたりまえ」のことがとても多い。
新人になら手とり足取り説明するようなことも
他部署から異動してきた人に
そこまでするかといわれると、
そうではないケースも多いと思います。
「社内にいるんだから、当然知っているよね」
「社会人だから知ってるよね」
と思われて、省略されてしまうことも
多いんですよね。
なので、他分野から人事に異動してきた人は、
とにかく目の前に降ってくる仕事をこなしながら、
手探りで人事の勉強をしていっていることが
多いと思います。
が、これはとても効率が悪いです……
実務から身に着くことも多いのは確かなのですが
人事の基礎知識の大半は、実は法律知識。
もし踏み外せば行政処分、追徴金、訴訟、
みたいなこともありえます。
最近では、SNSでうっかり会社のことを喋って、
法律に触れるのではと
炎上するケースも見るようになりました……
社会保険労務士や
税理士などの専門家に助けてもらうにしても、
基礎知識がなければ、
「あ、これ怪しいかも? 専門家に相談しよう」
と思うことすらできないことって、
けっこうあるんです。
知らずに相談できなくて、法律違反して、
諸々まずいことになっている会社は
少なくないと感じます。
だから人事に異動になった際には、
できるだけ早い段階で
基礎知識を身に着けたほうがいいと
私自身は思っています。
そんなわけで、この記事では、
「人事に異動した方が、基礎固めのためにまず読んでおきたい本」
をご紹介しようと思います。
新卒入社で、人事に配属になった方にもおすすめです。
1. 就業規則・人事諸規程一式(全部)
「いきなり本じゃないじゃん!」
という声が聞こえてきそうです。笑
でも大事なんですよ、就業規則・人事諸規程。
あなたは、自分の会社に、
就業規則、および人事関連の規程が
いくつあるか知っていますか?
正直なところ、
ほとんどの人は社内規程を
全部読んではいないと思います。
そこそこ大きな会社で、
複数の規程がある場合、
全部でいくつあるかも
把握していないことも多いかと。
(ちなみに、私も人事以外の規程は
全然わからなくて、
よく担当部門のお世話になっています。
いつもお聞きしてすみません)
就業規則や賃金規則、育児・介護休職の規程。退職金の規程。
他にもあるかもしれません。
福利厚生は別の規程があることも多いし、
その細部規則が別紙・別表で
決まっていることもよくあります。
全部を覚えておく必要はないけれど、
一通り目を通して
「どこに何が書いてあるのか」
「自社では何が決まっているのか」
を知っておくことはとても大事です。
そこが今の、会社とあなたの仕事の
スタート地点になるからです。
スタート地点がズレると、
考える施策も、
周囲とのコミュニケーションもズレます。
基本的な会話がかみ合わないのは
けっこうストレスです。
また、「人事の人」というイメージが定着すると、
社員から、人事制度のことをかなり聞かれます。
「ご担当じゃないかもしれませんが……」
という前置きで
担当じゃないこともたくさん聞かれますので、
その心づもりでいた方がよいと思います。
聞かれたことを全部答えられる必要はないけど、
何を見ればわかるか、くらいは
把握しておくのがいいと思います。
2. 社会保険労務士試験の入門書
読んでおきたい本2冊目は、
「社会保険労務士試験の入門書」。
例えばこういいう本ですね。
社会保険労務士、というのは
労働法と社会保険制度の専門家。
国家試験に合格すると名乗れる、
いわゆる「士業」のひとつです。
試験はかなり難しく、
合格には1,000時間くらいは
勉強する必要があると言われています。
ご自身の生活に照らして、
合格まで何年かかるか計算してみてください。
ちなみに、何年か前に調べたとき、
会社員の年間総労働時間は
平均2,000時間ほどだったと思います。
ご参考までに。
社会保険労務士の試験範囲は広いです。
そのテキストは法律ごとに複数冊あります。
けど、それらを全部読む必要はないと思っています。
ただ、とりあえず、入門書だけは
目を通しておくのがいいでしょう。
入門書なら1冊に、かつコンパクトに
要点がまとまっていますから、
それを通して、社労士試験でカバーされている法律の
全体像を押さえておくのがいいと思います。
人事施策は、ほとんどの場合、
労働法と社会保険法の影響を受けます。
その勘所を掴んでおくことが大事です。
「あ、これ確認した方がいいな」
とだけわかれば、
調べることもできるし、
相談することもできる。
書籍としては、
特に個人的なイチオシ等はないので、
上に挙げたのでもいいし、
自分で良さそうと思ったものを
選んで読むのでもいいと思います。
「社会保険労務士 入門書」で出てきます。
注意点としては、必ず最新年度版を読むこと。
労働法・社会保険法関連は
毎年なにかしらの法改正があるので、
古いものはお勧めしないです。
3. 給与計算の実務に関する本
3冊目は「給与計算の実務に関する本」です。
こういうものですね。
これもできれば
最新年度のを探して読んだ方がいいです。
人によって解説に
合う・合わないがあると思うので、
サンプルなどを見て、
読みやすいものを読めばいいと思います。
なぜ給与計算の実務について
知っておく必要があるかというと、
給与計算の流れを知っておくことで、
先に挙げた
「2. 社会保険労務士試験の入門書」
に出てくる社会保険料の
実務上の流れを知ることができるというのと、
源泉徴収と年末調整、
すなわち個人所得税のこと
について知っておいた方がいいと思うから。
なにが給与として課税されるか、
いくらくらい税金や社会保険料として
控除されるのか
の感覚を掴んでおくということです。
経費精算で処理していた本人への支給が、
実は給与として課税しなければいけないものだった
というのは、けっこうよくある話です。
自己啓発講座受講時の会社補助とか。
そして、課税処理した結果、
せっかく支給したのに、
本人の手元に残ったのはほんのちょっと……
というのも、これまたよくある話。
あとマイナンバーの取扱いとかもね……
マイナンバー、多くの場合、
人事であっても、
基準を満たした担当者以外が預かってはダメですよ。
トラブルになる前に気づけるよう、
基本的なことは頭に入れておいた方が
いいと思います。
実際に給与計算をしているのでなければ、
斜め読み程度でも構わないです。
社労士の入門書と同じく、
「あ、これ気を付けたほうがいいかも」
と気づけるようになることが大事です。
おわりに
ここに挙げた内容は、正直なところ、
人事のベテランの方にとっては、
「今更言うまでもないあたりまえのこと」
だと思います。
逆に、人事分野に3年以上いて、
上記で触れたことがないものがあれば、
それは危機感を持った方がいいのでは……
と個人的には感じます。
私の場合は、部署に詳しい先輩方がいて、
ありがたくも新卒の頃に、
かなり丁寧にこれらを教えてもらいました。
おかげで、早い段階からそれなりに
いろいろ考えながら仕事をすることができたし、
考えながら仕事ができたおかげで、
たくさんのことに気づき、調べ、
成長することもできました。
知識が全てではないけれど、
知識があるからこそ自由にできることも多いです。
それが人事という分野なのだと思います。
基礎を固めつつ
新たな仕事にチャレンジをして、
ご自身の楽しみを見つけていただけると、
人事をやっている仲間として
とても嬉しく思います。
人事って面白いですよ。